最新.4-6『襲い来る物』


今回は非常に短いです、申し訳ありません。


隊員N「ッ!二曹、これは……ッ!」

補給「分かってる、魔法攻撃だ」

塹壕内で身を屈め、会話をする補給と隊員N。
塹壕周辺には鉱石の雨がツララ状の鉱石による攻撃は、以前にも幾度か目撃していたが、
今回のそれは規模が違った。
塹壕を中心とした広範囲に、ツララ状の鉱石が途切れることなく
無数に降り注ぎ続けている。

隊員O「舐めたまねしやが……痛ッ!クソッ!」

隊員M「ひッ!銃撃、いやこれじゃまるで砲撃だよ!」

塹壕内に飛び込んできた鉱石が、隊員O三曹の手の甲を傷つけ、
隊員M三曹の鉄帽をガツンと叩く。
斜め上空から降り注いで来る鉱石の群れは、塹壕内にもいくつも飛び込んで来て、隊員等を傷つけた。

隊員N「二曹、このままでは塹壕内も危険です!」

補給「焦るな。オペレーターに類する者が崖の下にいるはずだ。手榴弾を投げ込んでそれを処理しろ」

隊員N「了解!隊員O、隊員M、手榴弾用意!」

隊員O「ああ、糞……ッ!」

隊員Nが重機関銃要員の二人に指示を飛ばす。
各々はそれぞれ手榴弾を手に取り、ピンを引き抜く。

隊員N「投擲!」

合図と共に、三人は塹壕の中から手榴弾を放った。
手榴弾は弧を描いて崖下へと落下して行き、
数秒後に複数の爆発音が聞こえた。

隊員N「……どうだ?」

しかし炸裂音の後も、鉱石の雨は止む気配すら見せなかった。

隊員N「ダメか……!もう一度やりますか?」

補給「……いや、これは闇雲に攻撃しても無理なようだ。隊員B、無線を貸せ」

隊員B「あ、はい」

補給は隊員Bから無線のマイクを受け取る。

補給「スナップ11、ジャンカーL1だ。こちらは現在魔法と思わしき攻撃により、釘付けになっている。
   崖下に攻撃を行っているオペレーターがいると思われる、そちらから確認できないか?」

特隊A『L1、少し待て。目標を捜索する』

補給「急いでくれ」

やり取りの間も、鉱石の雨は容赦なく塹壕を襲い続ける。

武器A「ッヅ!」

飛び込んできた鉱石の一つが、武器A三曹の右肩を掠め、肉を削いだ。

武器A(………舐めた世界だ)

武器Aは傷口を押さえながら、忌々しげに呟いた。



鋼の雨は、敵の潜む崖の上に降り注ぎ続けている。
そして崖下では傭兵隊の術師達が詠唱を続けていた。

術師F「鋼の切先は愚者の心臓を貫く裁きの刃!愚か者の行いに終止符を、我等の道は鋼の力で切り開かれる――!ッ、ハァ……」

術師G「術師F、変わる!」

術師F「あぁ、術師G……頼む」

今まで詠唱していた術師に変わり、別の術師が魔術所の前に座り、詠唱を始める。
少し離れた所でも、同じく二人組の術者が詠唱を交代する様子が見られた。

術師G「鋼よ、心をも貫く鋼よ!愚かなる者達の頭上に、冷徹な裁きを降らせたまえ!」

今、降り注いでいる鋼の雨は、術師一人の力で発動出来る物ではない。
術師一人が一度の詠唱で振らせられる鋼のツララは、限られた範囲に十数本が限度。
さらに詠唱は、術者の魔力と体力を消費するため、連続で発動できる回数にも限りがあった。
そこで、最初に魔法の効果を増加させる支援魔法を発動、これにより鉱石のツララは数倍に増加される。
そして複数人による同時詠唱、術師の交代による詠唱の長時間の詠唱継続。
これらの組み合わせにより、この強力な鋼鉄の雨の魔法“スティアレイナ”を実現させていた。

術師B「親狼隊長、スティアレイナによる攻撃は有効のようです!敵は行動できない模様!」

術師Bが報告を上げる。
上空には再び赤い発光体が浮かび、崖の上の様子を伝えてきた。
スティアレイナの攻撃により敵は釘付けになっているらしい。
奇妙な鏃は吐き出されなくなり、崖の上からの攻撃は鳴りを潜めていた。
一度だけ、爆炎攻撃があったものの、爆炎はすべて見当違いの場所で上がり、傭兵隊に致命傷はなかった。

親狼L「見ろ、攻撃が止んだぞ!」

親狼M「やったぜ、見たかこの野郎!」

敵が沈黙した事により、傭兵達が湧く。

親狼隊長「間に合ってれば……」

しかし、その脇で親狼隊長は苦々しく呟いた。
スティアレイナは本来、前進する前衛の兵を支援するための物だ。
しかし、支援するべき本隊は最初の爆炎攻撃で壊滅、生き残りも先ほどの突撃でほとんどが死亡。
発動があまりにも遅すぎた。
すでに戦術的な意味は無く、ただ一矢報いるために鋼の雨は降り続けていた。

親狼隊長「……撤退するぞ。敵が釘付けになっている今のうちにここから引き、衛狼隊に合流する」

親狼隊長は撤退の命令を出した。
今現在、親狼隊は魔法隊を含む少数の傭兵が残るのみ。撤退以外に選択肢はなかった。

親狼隊長「アイネ隊は魔法攻撃を継続。手空きのものは負傷者を……」

バシュッ、と、
親狼隊長の言葉を遮り、奇妙な音が一瞬聞こえた。
そして親狼隊長をはじめとする数名が、何かが通り過ぎたような感覚を覚えた。
各々はその“何か”を感じた方向へ目を向ける。

親狼L「……え?」

各々が目を向けた先は、詠唱を行っている術者の一人がいる場所。
そこで詠唱を行っていた術師の、鼻より上が無くなっていた。


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